美しい芸術を創作、研究、展示、出版、教育へ具体化し人生の中に根を張る健康な木への成長を目指すDatz Pressと韓国・大邱でフォトブックを中心としたアートブックを制作し、「写真-テキスト-デザイン」という3つのキーワードを中心に活動するAprilsnow Press。
神秘的で不可解なコラージュや日用品たちを新たな視点で捉え直した写真、アパートの文字のレタリング、本質的で哲学的な概念を視覚化することに取り組むコンセプチュアル・アートなど、今回はクラフトマンシップに根ざした本づくりを掲げ、温もりを感じる美しい書籍を手がける韓国の出版社から発行された作品集をご紹介します。
ストリート文字に対する着実な関心を持ち、修士論文も執筆するデザイナー、Jeong Jaewanは大邱広域市に位置する5階建ての「慶北アパートメント」をきっかけに、新しいタイプのストリート文字であるアパート文字に関心を持つようになりました。大邱の東西を横切る月閣鳳通り沿いに位置するこのアパートは、側壁に「慶北アパート」と硬くて質のあるレタリングを誰でも見ることができる位置に掲げていました。本書は建築家、グラフィック・フォントデザイナー、ビジュアルデザイナーとして活動する著者らが収集してきたアパート文字を披露する初のアパート文字コレクションとなっています。壁に直接書かれたレタリングからは文字の造形美だけではなくデザイン史を探るヒントにもなっていると言えます。それぞれの専門分野を生かし異なる観点からデザイン論を展開していく一冊です。
韓国出身のアーティストU Sunokは、空虚の美とドイツのコンセプチュアル・アートの要素を取り入れ作品の中で自然、時間、存在と不在、静寂、空間などのテーマを取り扱ってきました。Sunokにとって空虚な空間とは、ネガティブなものではなくあらゆるものに存在する「潜在的な可能性」だと述べています。例えば、べルリンの旧テンペルホーフ空港を住宅や文化施設に置き換える計画を拒否した市民たちが代わりに都市公園の設立を実現させ、市民が資本と物質に対する自由（Freiheit）を獲得した象徴的な勝利を題材とした「Paradrawing」（2014/2016）では、「無意味を芸術的な意味にインプットする、あるいは無意味に意味をインプットする、緩急の旅によく似た喜びの実践」を表現するために広い野原に人々が自由に出入りしている一見何もない空間を映像で製作し、その空間が実は満たされていることを表現しています。
本書では11のシリーズ、プロジェクト、エッセイ、レビューを収録。30年間に及び、Sunokが様々な方法論的実験と詩的なバリエーションを通じて、時間と空間を越えて最も本質的で哲学的な概念を視覚化することに取り組んできた様子をまとめた新刊となります。ペインティングやインスタレーション作品の美しいカラー図版からは空虚さとシンプルさへのこだわりが表れた一冊です。
私たちの日常生活は多方面からのさまざまな刺激が溢れているため、情報を取捨選択し必要のないものは見過ごすことを無意識に行っています。韓国出身の写真家Yoon Jean Leeの作品は棚、電話、椅子、カップなど、日常で当たり前のように存在し見過ごされているものを強調することで既存のイメージや空間を再定義しています。あるときは床から、あるときは高いところから、またあるときは対象物を切り取るなど・・・常識に囚われない構図と奇妙なアングルを選んで撮影しています。金属製の脚を持つ普通のガラステーブルが上から撮影されることで装飾的なリビングルームの花に変身し、カバー付きのテーブルが下から撮影されることで何が置かれているのかほとんどわからなくなるなど、Yoon Jean Leeは慣習的な見方を打ち破り日用品に異常な光を当てています。異質な視点から日常は驚きに満ちていることを教えてくれる一冊です。
エイブラハムブックスのクリエイティブディレクターを務めるほかデザイナー、編集者としても活動するJohn Gallのアートワークをまとめたコラージュ集です。2008年、グラフィックデザイナーのGallはクライアントの希望を叶えることを目標とした結果至上主義的な制作から脱却するべく、自分の創造性を再発見するために「間違った決断をすることも新しい見方を探すこともできる場所」としてコラージュを始めました。次第に表現の幅も広がり、その革新的な作品はニューヨーク・タイムズ・ブック・レビューの「ショートリスト」欄に掲載されるほどに。Gallは村上春樹、Vladimir Nabokov、Dave Eggersの表紙デザインで知られていますが、本書では5年間に渡り制作したニューヨーク・タイムズのイラストをはじめ、個人的に委託された作品を中心に収録しています。ランダムに切り取られたものが無造作に並べられた奇妙なコラージュは、気まぐれに破いたり、細切れにしたり、切り貼りしたり、並べ替えたりすることが、楽しく奇妙でありながら力を与えてくれる、「無害なカオス」と言えます。脳を再起動させる良性の方法であるからこそ、人々にインスピレーションを与えてくれるのです。
